八十三番 白菜的比喩
左持
白菜のいちばん外のやうな人 小池康生
右
白菜の四分の一が幽霊船 竹内宗一郎
白菜を比喩にした句で番組した。
左句。白菜のような人ではなく、「白菜のいちばん外」側の葉のような人という、そのこだわり方が面白い。いちばん外側の葉は、先っぽがへなへなになっていたり、汚れがあったりで捨てることもあるわけで、ちょっと草臥れたような、情けないような感じの人ということであろう。なるほどねとは思うのであるが、人を野菜に譬える、それもネガティヴに譬えるというのは、言葉でもあるいは絵画でもわりに普通のことであって、その点やや驚きに不足するのは惜しまれる。
右句は、スーパーで、二分の一とか四分の一とかに野菜を小分けして、ラップで巻いて売っているのを詠んでいるのであろう。うちも四分の一の白菜をよく買います。で、その四分の一で売られている白菜が、なんとなく「幽霊船」のような形であるな、と。これはまあ、大変大胆な見立てであって、思わずあの白い、ジューシーな肉が重層した断面を想起して、そうだったかいな、などと検討してしまう。決定的な説得力は無いのだが、比喩が物質感を惹起するところに妙味がある気がする。
優劣はお好みによるべし。持。
季語 左右ともに白菜(冬)
作者紹介
- 小池康生(こいけ・やすお)
一九五六年生まれ。「銀化」所属。掲句は句集『旧の渚』(ふらんす堂)所収。
- 竹内宗一郎(たけうち・そういちろう)
「天為」「街」所属。後者の編集長。掲句は「街」二〇一二年四月号より。