スケートの君は帽子のうちに眉 山口誓子
スケート場にいる「君」はどのような表情をしているのであろうか。ニット帽を被っているために眉が隠れてしまい、表情がはっきりとは読みとることができない。それゆえに滑れるようになって笑顔になっていたり、うまく滑れなくて緊張していたりと「君」の表情は読者の想像に委ねられることになる。そんな中、同時に発表された「スケートの眞顔なしつゝたのしけれ」や「スケートの君横顔をして憩ふ」といった作品を読んでいると、少しほっとした表情をしている「君」を思い浮かべた。というのも、氷上で慣れない動作ゆえに緊張してしまい、真顔になりつつも楽しんだのちスケート場の手すりに腰を掛けて休んでいる「君」が連作上に登場するからだ。『凍港』の跋には、
これは私が、多くの場合連作の形式によって、新しい「現実」を、新しい「視点」に於て把握し、新しい「俳句の世界」を構成せんとしつゝある時期である。
と記されてあり、山口誓子の連作についての考えが伺えるけれども、この「新しい『視点』」とはなんなんだろう。少しの間考えたいと思う。
掲句は「アサヒ・スケート・リンク」という連作のひとつ。『凍港』に収録。