自由詩
電車の中で展げている詩集を、隣の乗客が覗き込み、そのままじっと読んでいることがよくある。もう10年以上昔からである。だから、現代詩は読まれなくなったという説は、私の経験からだけいえば、ウソである。隣人は実に熱心に詩を読む。
しかし、10年前のある日、いつものようにページを覗き込んだ中年女性に、思い切り引かれたことがあった。彼女は驚愕の表情で、読書を続けている私の顔をまじまじと見た。そして、下車する際には振り返り、私の全身に何度も目を走らせ、なおかつ信じられないといった面持ちで去って行った。
その時の詩集が江代充「梢にて」である。この名詩集から表題作を「日めくり詩歌」で紹介したので、御覧いただければ幸いである。現代詩を読みなれている方は全然驚かないと思うけれども。(岡野)