襟足 山本鬼之介
任侠の山にたなびく夕霞
墨東や鉄砲百合がデマ飛ばす
四阿に組む脚美し夏帽子
亜麻色の髪の揺蕩ふ籐寝椅子
きなくさき元祖・本家よ青簾
炎日やむかし語りの行き斃れ
秋の蚊を払ふ女形の袂かな
江戸仕草かはす野径や魂迎へ
穂薄と背丈くらべのエトランゼ
田へ出でよ案山子祭のかかし殿
「政岡」は寺のだいこく村芝居
マンホールを出でてつくづく天高し
幽径に落つる木の実よ抜衣紋
黎明や壜に滴のあらばしり
鳥渡る赤城の雲を貫きて
十二単の切手の姫もやや寒し
行く秋ぞ銅の大師の固太り
文人的鬚たくはふる神無月
はすつぱな華僑のむすめ十三夜
本丸の遠き宴や冬櫻
作者紹介
- 山本鬼之介(やまもと・きのすけ)
一九三八年、東京都杉並区生まれ。「水明」「面」所属、現代俳句協会会員。一九七一年六月、「水明」に入会し俳句を始める。「俳句研究」一九七三年三月号の雑詠欄で、選者・三橋敏雄氏の一位推薦を獲得し、本格的に俳句を志す。一九七四年一月、「面」の同人となる。一九七四年より一九七七年まで、「俳句研究」の五十句競作に応募し、毎回佳作二席の成績。二〇一二年八月、「面」一一四号で、誌上句集「マネキン」を発表。