くろぐろと日常のみ込み残忍に沖へはき出せり東日本巨大地震は
中埜由季子「短歌新聞」4月号
今日の一首は投稿歌ではなく、専門歌人の作品。中埜由季子は、
佐藤佐太郎門下で、短歌誌「歩道」の同人。第四十回角川短歌賞を
受賞した実力派の歌人である。ネット上をのぞけば、プロパー歌人が
発表した震災にかかわるもっとも早い作品といえる。「くろぐろと日
常のみ込み」から「残忍に沖へはき出せり」という上句から中句への
展開が、私たちがテレビの画面に見たあの異形のモンスターとも呼ぶ
べき大津波を言葉でとらえている。この歌の次に「ああ東北よ毀れし
瓦礫の町うつる映像もれをり鴉啼くこゑ」がある。これもまた、衝撃
を秘めた静謐を詠い得ている。