あらゆる場合を考慮するのが想定なりたはやすく想定外などと言ふこと勿れ
吉村睦人「想定」「短歌」五月号
「想定外」という便利で無責任な言葉が、東日本大震災後のメディアには、イヤというほど繰り返されている。作者の吉村睦人は昭和五年生れ。昭和二十七年から約二年間、今の自衛隊の前身である保安隊に、志願して入隊している。保安隊では情報班に所属していたというから、まさに、当時の危機管理の現場に居たわけだ。「あらゆる場合を考慮するのが想定なり」という上句は、そのまま、保安隊情報班の鉄則だったにちがいない。若き日に、そういう厳しい訓練を受けた吉村睦人にとって、「想定外」「想定外」と責任回避をする危機管理者たちの言葉に、怒りを禁じえないにちがいない。掲出歌の前後にこれの歌が置かれている。
十四メートルの津波かぶりし福島原発想定は五・五メートルなりしといふ
現実となりてしまへば想定外などと言ひてもむなしき限り
悔しさが滲み出ている。「想定外」という言葉一つの重要さ、それがいとも軽々と発せられる状況こそ不幸だと作者は暗に告発している。
作者紹介
吉村睦人・昭和5年生れ・「新アララギ」所属