探偵 阿瀧 康
皿の上で
肉を、
小さく切る。
空にあるのは
嘘の涯。
本当の夜は
俺の
ポケットに。
(探偵は、自分のアパートに
帰ってきた)
帰るアパートが、
あったのだ。
× ×
ただひとつの
かがやく火星には
(動かない)
何をしても
刺が
あった。
夜食の 肉の上で
皿が、
小さく切ってから、
消える。
(詩誌「ガーネット」41号より)
探偵とは、「嘘」と「本当」にかかわ職業だ。空に嘘があり、本当はポケットにあると、ここでは語られている。ああ、この第二連と第三連の初めの数行のハードボイルドがたまらない。むろんそれだけではなく、この作品の、言葉の省略と飛躍のかっこよさを味わってほしい。
後半の「ただひとつの/かがやく火星」とは、犯人のことか、真実のことか、わからないが、その後の「刺/あった」という痛みの感覚はよく分かる。正義だけを単純に信仰することは出来ないのだ。かれは「嘘」を見つめ、夜を歩くのである。
探偵が主人公なのに、具体的な事件をしめす記述はどこにもない。しかし、この断片のような詩からは哀愁ただよう探偵の姿が浮かび上がる。探偵は、ただ一つの真実を見つけたとき、その真実の発見と引き換えに、己れに傷を負う存在なのだ。それこそが探偵の本質に他ならない。そのことだけを阿瀧さんはこの作品で表現した。それだけのことだが、まったく非凡なセンスだと思う。
探偵とは、「嘘」と「本当」にかかわ職業だ。空に嘘があり、本当はポケットにあると、ここでは語られている。ああ、この第二連と第三連の初めの数行のハードボイルドがたまらない。むろんそれだけではなく、この作品の、言葉の省略と飛躍のかっこよさを味わってほしい。
後半の「ただひとつの/かがやく火星」とは、犯人のことか、真実のことか、わからないが、その後の「刺/あった」という痛みの感覚はよく分かる。正義だけを単純に信仰することは出来ないのだ。かれは「嘘」を見つめ、夜を歩くのである。
探偵が主人公なのに、具体的な事件をしめす記述はどこにもない。しかし、この断片のような詩からは哀愁ただよう探偵の姿が浮かび上がる。探偵は、ただ一つの真実を見つけたとき、その真実の発見と引き換えに、己れに傷を負う存在なのだ。それこそが探偵の本質に他ならない。そのことだけを阿瀧さんはこの作品で表現した。それだけのことだが、まったく非凡なセンスだと思う。