五十六番 「あ~」と「しくしくふう」
左持
あーと言ふあ~と答へる扇風機 雪我狂流
右
暖房機しくしくふうと止まりたる 太田うさぎ
回っている扇風機に向かって「あー」と声を出すと、少し高音でビブラートのかかった声に聞こえる。なるほど「あ~」という感じ。子どもの頃には夏が来るとこれをやったものだが、アラカンの雪我狂流さんは昔のことをよく覚えているなあ。というか、今でもやっているのか。
暖房機をきると、中でかたかた音がして、空気を吐き出すような音がして、やがて吹き出し口の蓋がすーっと閉まる。その流れを「しくしくふう」というオノマトペで表したのが絶妙だ。音写として新鮮だし、「しくしく」と「ふう」の組合せに、日常生活というものの情けない平穏さが滲む。
この両句なども、ある意味では写生句なのだろう。どちらもオノマトペの句であり、擬人法の句であり、童心の句ということにもなるが、擬人法に無理がなくて内容の軽さに見合っているのはとても良い。「あ~」と「しくしくふう」の勝ち負けなんて当方には見当もつかないので、持。
季語 左=扇風機(夏)/右=暖房機(冬)
作者紹介
- 雪我狂流(ゆきが・ふる)
一九四八年生まれ。掲句は、『俳コレ』(邑書林 二〇一一年)所収の「こんなに汗が」百句より。
- 太田うさぎ(おおた・うさぎ)
一九六三年生まれ。「雷魚」「豆の木」「蒐」同人。掲句は、『俳コレ』所収の「蓬莱一丁目」百句より。