六十七番 島田さん
左
古日記大古日記君のこと 島田牙城
右勝
水鳥のたゆたひて訃のいたりけり 島田刀根夫
島田刀根夫氏といえばお名前と作品は、竹中宏氏の「翔麟」誌上で以前から拝見していたわけであるが、このほど頂戴した新句集『朱夏』の「あとがき」を見ると、「今回も、編輯、装訂などのすべては、愚息夫妻の邑書林の好意に甘えた」とあって、つまり島田牙城氏の父君なのだった。びっくりしたので牙城氏が一年前に出した『誤植』からの句とで番組した。
二人ともに田中裕明氏と所縁(そうだ、「ゆう」誌上でも刀根夫氏の名前は見ていたのだ)で、それぞれの句集の巻頭に追悼・追憶の句が並ぶ。左句は「大古日記」という滑稽味のある造語が却って悲しみの深さを伝える仕組。今の悲しみの一方で、古日記に書かれた若き日の楽しいあるいは馬鹿げたエピソードの数々を読み返しながらの泣きみ笑いみを、とつとつとした三段切れのリズムが引き立てる。右句は堂々とした立句風のたたずまいで悲しみを受け止める。ちなみに巻頭のこの句に対して、巻軸には、
たいせつな忌日のこせし古暦
が置かれて首尾照応している。水鳥がたゆたうのは水面がたゆたっているから。たゆたいきらめく光の彼方からやって来る悲しい報せ、光の彼方へ去ってゆく才ある若い友人の面影。強い思い入れが美しい絵になっている。左右とも心は深く、措辞は整っており持であるが、親孝行したい子の心を酌んで、左負けて侍れかし。
季語 左=古日記(冬)/右=水鳥(冬)
作者紹介
- 島田刀根夫(しまだ・とねお)
一九二五年生まれ。虚子に師事。波多野爽波「青」創刊同人。田中裕明「ゆう」の創刊に参加。『朱夏』は第四句集。
- 島田牙城(しまだ・がじょう)
一九五七年生まれ。波多野爽波に師事。二〇〇三年、「里」創刊、世話人代表。『誤植』は第三句集。