八十番 パック
左持
寒卵歴々とあるパツクかな 藤田湘子
右
一パツク輪ゴムぱちんと諸子買ふ 小川軽舟
右句は「鷹」の最新号(二〇一二年四月号)に載る「通信簿」十二句より。細やかな言葉の運動感が気持ちいい。“諸子を一パック買う”という文の“一パック”を倒置法的に頭に置いた上で、「輪ゴムぱちんと」を挿入節として差し込んだ構造になっている。ほとんど無内容と言っていいような単純な句だが、言葉の配列の点から見るとダイナミックで手がこんでいる。それにより、十七音の全体に凝縮感と撓りのようなものが生まれているように思う。
右句を、面白いな、パックですかと反芻していたら、作者の師匠藤田湘子にもパックの句があったのを思い出した。それが左句。一九八四年に出た第六句集『一個』所収。この句集はいわゆる一日十句時代の作にあたっている。速吟速成による新境地を狙ったわけで、左句の思考の粘り気を感じさせない軽妙な詠みぶりはその筋の作として上々のものではなかろうか。「歴々とある」なんていう言葉遣いは臭みが出かねないところ、「パツクかな」と流したのが奏効しているようだ。
両者とも対象への思い入れなど抜きにして、言葉のドライブ感だけで面白い句に仕立てている。持。
季語 左=寒卵(冬)/右=諸子(春)
作者紹介
- 藤田湘子(ふじた・しょうし)
一九二六年生まれ、二〇〇五年没。水原秋桜子に師事。一九六四年、「鷹」創刊主宰。
- 小川軽舟(おがわ・けいしゅう)
一九六一年生まれ。藤田湘子に師事。二〇〇五年、「鷹」を継承主宰。