日めくり詩歌 俳句 高山れおな (2012/4/27)

八十一番 べたり、べとり

左持

杜若べたりと鳶のたれてける 蕪村

白脛をべとりと舐めし牡丹かな 中西其十

「里」の最新号(先日出たばかりだが実は二〇一一年十一月号)に「特別付録 新発見資料 1922年其十夭逝」という特集が組まれている。日野草城や山口誓子と学生俳句会の仲間で、大正十一年に満二十二歳で夭折した中西其十について、島田牙城氏が熱血考証の筆を揮った上に、「京鹿子」第十七輯に誌上句集として掲載された「其十句集」がそのまま転載されている。

其十の作句歴はわづかに二年半程、遺された句数は二百余に過ぎない。だからと言つて忘れ去られるには余りにも惜しい才能だつたのではないか。

という一節に、牙城氏の思いは尽くされていよう。そしてこの言葉、「其十句集」を読めば、少しも過褒ではないことがわかるのである。作風は、若き草城もそうだが、蕪村調の京の艶冶から漢詩文臭を引いたような、とでも言おうか。で、右句なんかももろ蕪村を感じさせるが、牡丹の句で合わせると蕪村は名句ありすぎなので、オノマトペの「べとり」を鍵語にして左句を引っ張ってきた。

左句は、カキツバタの花か葉にべたりと鳶の糞がくっついている情景かと思ったら、カキツバタの白い花そのものを鳶がべたりと垂れたものと見立てて興じている、ということらしい。少なくとも講談社版『蕪村全集』の発句篇の説明はそうなっている。右句は、女が動く際に、うっかり牡丹の花のそば近く寄り過ぎたたために、牡丹に引っかかった裾がはだけて白い脛が見えたという情景を、牡丹が女の脛を舐めたと擬人法で言ったものである。蕪村その人が詠んだと言っても通用しそうな堂に入った句づくり、参りました。持。

季語 左=杜若(夏)/右=焚火(夏)

作者紹介

  • 蕪村(ぶそん)

超偉いので記述を略す。

  • 中西其十(なかにし・きじゅう)

本文に記したので記述を略す。

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