メイフラワーの伝言 L・M・モンゴメリー
ここは古い灰色の丘、吟遊詩人がそよ風を流すところ
ほの暗い樅の古木たちは苔むした枝を繁らせ
茶色に枯れきった草原は私たちの顔を隠そうとするけれど
くじけない勇敢な私たちは皆 雪を割って花ひらく
谷々を鳴らして 吹く風は厳しく冷たい
旅の青い鳥もまだ一羽も歌いに来ない
でも世界中が私たちの挨拶を待っているから
春の伝言を届けるために 私たちは花ひらく
私たちは快活な5月の陽と
沢山の森の鳥たちのロンドと楽しい日々の先駆け
だから悲しい大地よ あなたにすべての歓びと楽しみを贈ろう
こうして春が来るのだと伝えるために 私たちは咲く
(岡野絵里子 訳)
The Mayflower’s Message
L.M.Montgomery
Here on the gray old hillside where minstrel breezes blow,
And fire—trees dim and ancient with mossy branches grow,
‘Mid grasses brown and broken where scarce our faces show,
All bravely and undaunted we bloom above the snow.
The winds are chill and bitter that o’er the valleys ring,
And not a vagrant bluebird as yet is here to sing;
But all the world is waiting to greet the news we bring,
And all our blossoms letter a message from the spring.
We are the blithe forerunners of sunshine and of May,
And many a wood—bird’s rondel and many a merry day.
Therefore, sad earth, we bid you all joyous be and gay,
For we are sent to tell you that springtime comes this way.
“The Poetry of Lucy Maud Montgomery”
selected and introduced by John Ferns and Kevin McCabe
Fitzhenry and Whiteside 1999
L・M・モンゴメリーは詩人としてより、「赤毛のアン」の作者として、よく知られている。表題のメイフラワーもアンの大好きな花。かご一杯に花摘みをしてきたアンはこう言う。「ほんとうに、さんざしなんてない国に住んでいる人がかわいそうだと思うわ。(中略)さんざしがどんなものか知らないし、それがなくてもべつになんとも思わないなんて、それこそ悲劇だと思うわ。あたし、さんざしのことをどんなふうに考えているかわかる、マリラ?あれは去年、死んだ花の魂で、これがその花たちの天国にちがいないと思うの。」
メイフラワーは、イギリスではさんざしだが、実際のカナダでは、ツツジ科の別の花。地面に低く咲くピンクと白の可憐な花である。この詩に予告されている通り、花で春の野原は埋めつくされるが、その様子をアンは花の天国と感じたのだろう。
モンゴメリーのこの詩は、古典的な詩語が使われ、韻も踏んだ優雅な文体だ。多くの詩で、彼女は時にあふれるばかりに、時にひそやかに、美しい比喩と言葉を尽くして、自然への愛を表現している。
彼女の育ったプリンス・エドワード島では、5月が春の訪れる季節になっている。長く厳しい冬をこもって過ごす島では、ずらりと戸外に干された洗濯物が嬉しい春の象徴なのだという。春夏の短い期間に訪れる観光客は約100万人。そのうち1万人が日本からの赤毛のアンシリーズファンだそうだ。モンゴメリーの愛した森の小径で、今日も誰かが記念写真を撮っていることだろう。