「格子の垣」 ルネ・シャール
ぼくがひとりなのは、見すてられたからではない。ぼくがひとりなのは、ひとりでいるから。農園の
壁のあいだのあの巴旦杏の実(み)のように。
山本功訳 詩集『読書室は火ともえて その他』(1957)所収
訳は今日の詩人双書 『ルネ・シャール』(1969年思潮社刊)より
「ヴィエイラ・ダ・シルヴァヘの九つの謝辞」と題して九つの短い詩をまとめたものの4番目の詩。いずれも日々のメモといった感じの、飾らない、だが作者の日常の思考が想像できる小品である。たとえば「家族に」と題する7番目の作品では「あじけないものだ、牧場のいろどりが添わないきんぽうげの花は。」というフレーズが印象に残る。現実生活を寡黙に踏まえた詩人である。
掲出の「格子の垣」も飾りの無いそっけない感じのフレーズだが、この詩を知ったあと、自分の気持ちがすくっと立つようになった。中学高校の頃、私たちが一番恐れたのは「あの人変人ね」とか、ひそひそ話のネタにされて、ひそかにシカトされることではなかったか。怖がりすぎてドツボにはまった苦い経験も。
シャールの詩は清流のように、その若年性陰湿系集団的暴力に立ち向かう気力をリフレッシュさせる。独りでいる権利、大衆に属さない自由、ともすれば相反に陥りがちな愛と自由を両立させようと苦闘する者を励ます。別にとくべつな詩的イメージを創造しているわけではない。ごく当たり前のことをボソッと言っているに過ぎないのだ。
ひと目につかない裏庭にただ1個実っているソルダムの紅さと匂いがここまでとどいてくる。