やつと退勤ネオンの色の牡丹雪 草間時彦
働くって大変だということを改めて認識させてくれた作品のひとつ。
勤務時間内の密度が濃かったのかもしれないし、終電まで会社に残っていたのかもしれない。いずれにしても勤務場所に対して心理的な時間の長さを感じた作中主体がそこにいる。
しかし、会社を離れ、家路に着こうとする作中主体に安堵しているような様子が伺えない。なぜだろう。
それはピンク・青・黄色といた歓楽街を彩るネオンの色のはかなさや、降っても積もることのない牡丹雪の切なさを読みとれたからだと思う。
きっと作中主体は心の安らぎを覚えることなく、次の日も「やっと退勤」とひとりでつぶやき、仕事を終えるのだろう。
他にも
金魚赤し賞与もて人量らるる
息白し酔ひてもサラリーマンの貌
梅雨穂草作業衣が俺をみじめにする
といった仕事に対する愚痴にも似たつぶやきを作品として残している。
『中年』(昭和四十年)より。