日めくり詩歌 俳句 内田麻衣子(2012/10/01)

肉體計量されて銃もつ少女又は兵か   大島得志

句集『一輪車』は大島得志の句集。
全64句がおさめられたその本には、まえがきもあとがきも奥付けすらない。

だが、表紙を捲ると薄紙に透ける作者の名前の下に、「1973 イザラ書房」と書かれていることからその年の刊行だと推察される。
句集自体はやや薄いが、作者の想いが詰まった句集だ。

巻頭句は、

麥秋の貨車よりいでて牛孕む

3句立ての頁は、句の総数が少ないこともあるせいか、鋭い感受性がより攻撃的、また濃度の高い実験的俳句が混ざる。

月光拒みつづけて疊む爪鑢り
ゆうべ男は潜水服を枝に釣る
飜る痩身の鮫 腕がない
鯨が見えるホテルの階段静かに裂け

時おり息継ぎをしないと、巻きこまれそう。

そしてこの句。

肉體計量されて銃もつ少女又は兵か

初読みの際には、時代的な背景から目を瞑りたい私もすぐに閃いた。
生まれる直前にあった戦争のことを。

刊行当時、作者は今の私と同年代か一世代くらい上の年齢。
充分な大人であることに違いはないが、大きな差がある。
彼らは、その前の戦争を体験した人。

少年乳のひそかな隆起合衆国
各個の乳ガス弾銛として覚され
死后は手足すこやかな椅子湖に置かれ
にはとりの首をりぼんと思い截る
刑場のにじんでならぬ柳かな

距離をおく振りをしつつ、感覚は重く冷たい。
もとより鋭利な感受性の波が大きくうねる。

銃をもつ少女、そして痩身の鮫、にはとりの首…
語り部のように作者は俳句を紡いでいく。

少女又は兵か。

彼を静かに揺り動かしたのは鎖状の記憶なのかもしれない。

終戦から28年後、経済成長時代のなかでもあの頃の大人たちに「戦争」の感覚が強く息衝いていたことを知った一冊。

  • 大島得志句集『夕景』(昭和48年 イザラ書房) 所収

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