紫陽花のころ 谷ちえみ
はじまりは意志なき扉が開きしゆえ生まれ落ちしも恋に落ちしも
紫陽花はさびしさの色見本帖 陽をかえしつつ滴のせつつ
広げたる日傘の陰にわたくしの影をおさめてポストまで行く
紫陽花が咲くころ君が問いしこと不安と恐れの違いを述べよ
青梅がガラスボウルに張られたる水中に銀の星と揺れおり
ようよう記憶を描きかえずばひとは自ら背骨を支えきれぬを
球体の水なる瞳に夜の暗さ沈めてうさぎの吃音かなし
孤をそして宇宙を思いもたげつつ重たかるべき紫陽花 無音
にんげんの翳を脱ぐとき脈打てるげにうつくしきけもののこころ
縁日のポスター貼らる 坂道を上りきりまた見失う夏
作者紹介
- 谷ちえみ
二〇〇六年より作歌
二〇一〇年より「心の花」会員
現在「りいふ」同人