紫陽花のころ    谷ちえみ

  • 投稿日:2012年08月17日
  • カテゴリー:短歌

紫陽花のころ    谷ちえみ

はじまりは意志なき扉が開きしゆえ生まれ落ちしも恋に落ちしも

紫陽花はさびしさの色見本帖 陽をかえしつつ滴のせつつ

広げたる日傘の陰にわたくしの影をおさめてポストまで行く

紫陽花が咲くころ君が問いしこと不安と恐れの違いを述べよ

青梅がガラスボウルに張られたる水中に銀の星と揺れおり

ようよう記憶を描きかえずばひとは自ら背骨を支えきれぬを

球体の水なる瞳に夜の暗さ沈めてうさぎの吃音かなし

孤をそして宇宙を思いもたげつつ重たかるべき紫陽花 無音

にんげんの翳を脱ぐとき脈打てるげにうつくしきけもののこころ

縁日のポスター貼らる 坂道を上りきりまた見失う夏

作者紹介

  • 谷ちえみ

二〇〇六年より作歌

二〇一〇年より「心の花」会員

現在「りいふ」同人

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