けだものを胸に飼う 生田亜々子
舐めかけのチュッパチャプスをさし出して風向きを見る私はわかる
もうすぐに溶けるであろうテーブルのバター許してくれなくていい
飼い馴らせないけだものを胸に飼う レモンはそっとやさしく絞る
余白などどこにもなくて木苺ももう無心では採れなくなった
大丈夫花屋に並ぶいろいろの花ならみんなお金で買える
黙りこむことはかんたん私には天動説のままの世の中
クリックで消去できない傷があり嗚咽が漏れるのならばそこから
人界とこちらをつなぐ凸凹を無くす端子が見つからなくて
実柘榴がカッと開いてイメルダの上の名前が思いだせない
ばら肉のあたりがすごく痛むのです そこに心は無いはずなのに
作者紹介
- 生田亜々子(いくた・ああこ)
1971年生まれ。熊本市在住。現代短歌南の会「梁」所属、短歌誌「虹」同人。