レモンミルク 結城胤美
アヴェロンのこどもが胸に住んでゐるわたしも顔は見たことがない
脚の悪き仔犬が跳ねるまぶしくてうれしくてもうたまらないんだ
生きてゐるわたしの肌に溶けてゆく淡雪は死を好んで積もる
変声期をおそれる君が飲むためのレモンミルクを煮立たせてをり
梅の木の節より出づる花の芽に成長痛の彼を想へり
夢の中でどんどんちひさくなつてゆく友を食卓のうへに飾りぬ
触れあひし部分が溶けて透きとほる気化した少年少女の日暮れ
幾層もヴェールをまとつたぼくの部屋 濡れないけれど水の中です
掘りごたつの闇を恐るる子の足の透けゆくやうなつめたさに添ふ
やはらかい生きてゐるからやはらかい流れる君をぐにやぐにやに抱く
作者紹介
- 結城 胤美(ゆうき つぐみ)
1986年広島生まれ
短歌結社「朔日」所属