朝のラジオ 後藤由紀恵
彼岸花に白と黄色のあることを朝のラジオに耳は聞きおり
ちちははと暮らすむかしの家なれば朝の網戸にしずかなる蜘蛛
待つ人のなきバス停にしばらくを止まりて秋の光を乗せて
ああ空が高いねすごく遠くまで来てしまったねと彼岸花わらう
また皆で会おうと送るメールにはやさしき雨の秋の返信
うんめいはこわいことばと十月の蝉のまばらに庭に死にたり
いっときの優しさのみで出来ているひとの言葉をくり返し読む
捨てたのか捨てられたのか茫然と夜の廊下にうずくまるもの
トイレにて会釈を返す少女らの膝下ながきをしみじみと見る
胸すこしひらいて秋をうけいれる彼岸花咲く土手をゆくとき
作者紹介
- 後藤由紀恵(ごとう ゆきえ)
1975年愛知県生まれ。まひる野会会員。歌集『冷えゆく耳』(ながらみ書房)