時のみぎわ 米倉歩
閉まるとびらに刈られるわたし切り口を鞄でかくし息ひとつ吐く
中ほどに進めば縋るものはなしイデアのように吊り革がゆれる
じりじりと圧死の文字が迫れるを男は本を開かんとする
制空権握らんとして本とわが頭とせつなくもせめぎあう
拉がれているわたくしの最果てに爪先はあり みぎわに触れる
ゆるぶいとま持ちえぬ日々よ霜月は阿武隈川の青澄むころか
とびら開けば体はわずか浮きあがり現世のほうへ押し流される
にごり水溜まったままの目に見上げいつか銀杏が色づいていた
あさなぎの海に貝殻拾うよう 冷えた机をひとつずつ拭く
かたち変わるほど愛された日々はるか朝の水に水のつめたさ
作者紹介
- 米倉 歩(よねくら あゆみ)
1968年、宮崎県生まれ。「まひる野会」所属。日本語教師。