夜に至りぬ
木蓮の葉は散りつくしもう鳥の帰ることなき巣のあらはなる
われの先を駆くる落葉を追ふやうにあゆみてをれば夜に至りぬ
退りゆく風景のなか讃美歌をうたふ人びとの口のかたち見つ
星明り強かりし世よただ一人のひとに呼びかく〈疾く来りませ〉
いきもののぬくみわが身にうつりしがまた冷めゆけりまぼろしのごと
ゆふぐれは窓よりにじみゆふぐれを歩みてをらむ人をおもはす
流星に遇はざるままに見てゐたる星と星とのくらき奥行き
卓を垂るる檸檬の皮のゑがかれて螺旋の内にひかり保たる
花、魚、肉塊、果実、銀の皿にやがて朽つべきもの溢れゐき
室内にちひさき光とどきゐていづくにか冬の水の揺れをり
作者紹介
- 横山未来子(よこやま みきこ)
1972年東京都生まれ。
「心の花」所属。
1996年第39回短歌研究新人賞受賞。
歌集に『樹下のひとりの眠りのために』、『水をひらく手』、『花の線画』(第四回葛原妙子賞)、『金の雨』。他に『セレクション歌人30横山未来子集』。
横山未来子Webサイト 水の果実