しばらく覗く 染野太朗
アボカドを握っては置く熟したるたった一つを見つけるために
西友のレジ袋(M)2円なり買うとき今日は怒りが湧いた
塩水で色止めをするあやうさに人を恋いたり 不味いりんごだ
両脚をこたつに伸ばし「夜の梅」なる羊羹をしんしん食べる
超音波式加湿器のしずけさに鼻近づけて鼻を濡らしぬ
釦すべて留められてあり首のないマネキンが着る学生服の
テロップに交通情報流るるを音消して見る マツコが笑う
粉末のココアを溶いててのひらでカップを包む しばらく覗く
*
百目という妖怪ふいに部屋に来て鏡をくれと叫んで泣いた
さびしさが地蔵のように立っている怒りがそこに水を供える
作者紹介
- 染野太朗(そめの たろう)
1977年生まれ。「まひる野」所属。歌集『あの日の海』。