さくらさく夕暮れ 富田睦子
遠きひとますます遠くさくらさく夕暮れひくく銹びる欄干
余韻とう言葉をもたぬわが少女一途に説きぬビー玉をもて
ティファールのアイロンはよしシュウシュウと霞の立ちて春は滲めり
きぬさやのさやの響きを愉しみて湯よりあげれば湯気立つわが子
つきとおす嘘に似ていて母という偶像しんと身にまといおり
散り際のさくらに黒き顔のあり顔あまたあり痛しゆうかげ
ささくれがやがて尖りてくるまでの夕暮れなりき 花びらを踏む
ひとひとり「ママ友」フォルダに振り分けぬ鱗と鱗を響かせながら
平日の回転寿司に経産婦ばかりの女子会非常によろし
春熊のわがむき出しのエゴイズム母性と呼ぶか地震(なゐ)怖き夜
裏返すような青空さえざえと褒められたきとうわれの禁錮(きんこ)爾(じ)
作者紹介
- 富田睦子(とみた むつこ)
1973年愛知県生まれ
まひる野所属