Strobelights 目黒哲朗
釣り人よもつと遠くへ投げないか言葉以前の針のひかりを
むかしむかし優しいガーゼ くりかへし洗ひしマスク持たされてゐき
やつぱりだ実家に来れば食卓に東ハトオールレーズンがある
金属バットで白いボールを打ちかへすさびしさを子も知る歳となる
花惜しむ心とともに揺れてゐるかばんの中の検尿容器
かさぶたのところ掻きこす愉しさをこよひは薬指にあたへる
「すくひぬし布に包みて寝かせけり」舞台の園児まつすぐに言ふ
バスの窓におでこを当てて見てをりぬ町といふか、そのずたずたなもの
泥だらけの頬ぬぐつても泥だらけ つめたい眼窩舐めとつて、吐く
あんぱんのうへの桜の花びらがまるでおへそのやうにしよつぱい
新月の窓辺に寄りて口づけをさらふ日がこの子たちにも来む
マスクのうへ眼鏡くもつて見えないがわたしのところお帰りなさい
作者紹介
- 目黒哲朗(めぐろ てつお)
1971年長野市生まれ。齋藤史に師事。「原型」終刊に伴って、現在は所属結社なし。
歌集『CANNABIS』(不識書院 2000)
『セレクション歌人27 目黒哲朗集』(邑書林 2006)
『VSOP』(本阿弥書店 2013)