かさぶた 堀合昇平
原色のネオンに染まりゆく街で遠吠えの衝動をおさえつつ
駅に立つ父の背中に眠る子のぐにゃりと首を傾げたままで
試せども試せども不敵の笑みはうまく浮かばず 待ち人がくる
生垣の隙間にみえる裏庭に野ざらしで立つぶらさがり健康器
添えた手の熱のほどけてゆくまでを待つ苦瓜に刃をあてながら
思い出しわらいの末に泣き出して風音ばかり聴いていたひと
眠れずにきつく閉じれば明け方のまぶたのうらに何も映らず
脱衣所のうす暗がりに浮かんでは消える充電ランプのひかり
朝焼けに影淡くしてマンションの立体駐車場の支柱は
あかり取り窓に注げる冬の陽の静けさ そっとかさぶたを剥ぐ
作者紹介
- 堀合昇平(ほりあい しょうへい)
1975年 神奈川県生まれ
2008年 未来短歌会入会、加藤治郎に師事
2011年 未来賞受賞
歌集『提案前夜』(書肆侃侃房2013)