湖北へと 永田淳
湖の面に力漲る暁に小さきハスの銀(しろがね)に跳ぶ
航跡を遥か南に引くわれに琵琶湖の巨き曇天の空
極北を目指す逸りの竜骨(キール)もて70mph(マイル)に水をわけゆく
葛籠尾(つづらお)の崎の松より飛びたてるミサゴの眼に湖上の二人
遠雷が湖の奥より聞こえきぬ秋は謐かに深まりの中
さびしくはないかと不意に問われたり竹生島辺に二人し釣れば
崎を経て湖流は北へ変わるらしわずかな流れにボートを委ぬ
伊吹嶺の近くに見えて歳月は琵琶湖に水をなじませてゆく
千年は瞬きほどの時の間と竹生島の神は言いたり
そうやっていつまでも浮いてるがいいさバウを南へ奔りはじめつ
※バウ(bow)=舳先
雲切るるあたりに光は漏れ出でて湖へと岸は傾れてゆけり
蹠に波の起伏は感じつつ遠くにも一艇浮きいるが見ゆ
最大であること以上に秘められて人を水辺に佇たしめにけり
作者紹介
- 永田淳(ながた じゅん)
1973年生まれ。1987年ごろから歌を作り始める。「塔」編集委員、青磁社代表。歌集に『1/125秒』『湖をさがす』。