ルカ、異邦人のための福音 服部真里子
つばさの端のかすめるような口づけが冬の私を名づけて去った
縫い針はしきりに
死者の持つホチキス生者の持つホチキス
海峡を越えてかすかに翳りゆく蝶のこころとすれ違いたり
北窓の明かりの中に立っているあなたにエアホッケーの才能
遠い日の火事さえ私の名を呼ぶよカモメたち刃のように飛び交い
復讐を遂げていっそう輝けるわたしの幻ののどぼとけ
犬のことでたくさん泣いたあとに見てコーヒーフロートをきれいと思う
ふいの雨のあかるさに塩粒こぼれルカ、異邦人のための福音
横なぐりの雪 ではなく雪柳くずれた後の道で会いたい
だとしてもあなたの原野あしたまた勇敢な雪が降りますように
アランセーターひかり細かに編み込まれ君に真白き歳月しずむ
『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房 2018年)より