風を翻弄している桜 中家菜津子
廃園の有刺鉄線その奥に風を翻弄している桜
日に焼けたうす紅色の母子手帳 秘密を見つけ胸底に置く
「接種日を延期したのは発熱のせい」と我より若い母の字
窒息を夢見てひらくさくらさくらこの世の空を埋めつくして
我ほどの大きさの枝あわ雪と花の重みで裂け横たわる
生殖を知らぬ桜の下におり熱おびてゆくくびすじの跡
夕焼けのひかりに灼かれ花びらの火の粉のあわいを浮遊する鳥
見上げれば花びら掬う柄杓星やがて銀河に流れつくなら
桜散る樹木のような他者として慈しむためこの体抱く
ははの文字ほどけていってはろばろと結ばれてゆく今のわたしに