冬の瑞穂区 荻原 裕幸
ある朝なぜかこの世に鳩がゐなくなる冬の電線だけを残して
椅子になれたら椅子になりたい寒雲を見てゐて急に切実に思ふ
瑞穂区冬晴れ寂しさ妙に纏ひつく印象派の描くひかりのやうに
熱くもなく炎でもなくそれが火であることをただ見せる山茶花
元は天使なのかも知れぬ亡き父の冬天だけを撮つたアルバム
書籍用紙に俺はなりたい誰かの書く凍蝶の詩を印刷されたい
冬のひざし浴びればむしろ冷えてゆく妻と静かな古都を旅して
日本を心から愛したい歯みがきをしてからたべる蜜柑が不味い
夢なのだと知つてはゐても貘が来て冬のすべてを齧りはじめて
来世は避雷針でもいいと言ふひとがゐて春雷をしばらく思ふ