貴族のゲーム 須田 覚
「何よりも安全と健康を優先させる」法や倫理よりも
鬱チェックリストの十六番目に「性欲」とあり夕日を仰ぐ
自慰もまた性欲なのかコンビニの棚に並んだ乳房と視線
時を経て0となりゆく曲線を引き寄せそっと口づけをする
吸って吐くことさえ痛い秋の日にマゾヒズムこそ救いであって
「精神は肉体内に存在す」背理法にて証明をせよ
椅子という記号であれと強いられる十九歳の女王様に
道具には取っ手、ボタンがついている「お前も同じ」と女王様が
刈り取りは早いだろうか稲の穂は差し出すように首をもたげて
打たれたる肌の痛みを受け入れて時に羊はよろこんでいる
咀嚼物を分けていただく 女王の過去を読み解く僕の
風呂場の冷えたタイルに頭を置き(何が今から始まるのだろう)
水の中沈んでいれば苦しくて体は震え
労働を強いられている女王と悦びだけを味わう僕と
足踏みの時代をひとつ押し出して知らぬ世界を縫い付けてみる
女性器も乳房も持たぬモノに触れ肌の白さに溺れてみせる
はやりもの避けつつ生きる君がまだ握りつづける
辛いとき「これはプレイ」と思うだけほころんでくる心と体
あれはてたこころのおりをはきだしてひかりをはなつきららせきらら
死の床できっと思い出してみせる耳を咬み合う朝のあいさつ