公園 窪田 政男
風孕むカーテンを人差し指で押し返すとき世界は弱い
「人相が悪くなったわね」きみが言う朝のあいさつ そうかもしれず
皮膚一枚肉骨
理由なき反抗もあり段差なき躓きがあり道に落葉
スフィンクスの問いがあったねなるほどね三本足になって候
風立ちぬ三十一文字は煽られて言葉散り散りはや神無月
テラスではもう寒くなり珈琲を飲む背も曲がり物の怪じみて
十四で聴いた
空たかく安閑として人生のニス剝げたまま公園の椅子
昼下がり陽だまりのなか少し老いひかりの和毛をぼくは見つける
空の落とし物のように鳥がおり噴水は疫病で止まったまま
公園は所在なげな人ばかり一人が鳩を毟りはじめる
悪しざまに責める人いて憑依する愉悦であると耳をふさぎぬ
たとえば鎖骨、窪みに湛えた水がずっと震えているそんな強迫
クラリネットを吹く老女あり誰そ彼に俯きて聴くステンカ・ラージン
胸に鳥、抱きしむ思いそのままにやがて
流れゆく人波を見るぼくもまた人波になり陸橋が残る
嬉々として雨に打たれた日々がありやがて白夜が来たりて明けず
夏の薄き胸板もまた水弾く肌も逆光の記憶のなかに
老いてなお言葉をおぼえ
*S&G:アメリカのフォーク・デュオ、サイモンとガーファンクル。「Old Friends」はお互いに老いた旧友の公園での光景を歌った曲。アルバム『ブックエンド』に収められている。
**田村隆一の詩「帰途」を読み返して。